認知症の区分所有者への管理費滞納対応

 理事長をしています。最近、高齢の区分所有者の方から管理費の滞納が始まりました。何度か督促しても連絡がつかないため、訪問したところ、どうやら認知症の症状が進んでいるようです。このままでは滞納額が増えてしまいます。管理組合として、認知症の所有者に対し、管理費を支払ってもらうためにどのような法的・実務的な対応を取るべきか教えてください。

 高齢化が進むマンションでは、認知症の区分所有者への対応は避けて通れない課題です。管理費滞納の問題は、マンション運営の公平性を保つ上で看過できませんが、まず人道的な配慮として、「孤立を防ぎ、適切な支援に繋げる」という視点を持つことが重要になります。
 最初の実務的な対応として、まずは地域包括支援センターへの相談を強くお勧めします。地域包括支援センターは、高齢者の生活全般に関する相談窓口であり、状況に応じて適切な福祉サービスや、必要な支援機関(弁護士、司法書士など)へ繋いでくれます。管理組合が直接介入する前に、公的な専門機関のサポートを得ることで、人権に配慮した対応が可能になります。
 ただし、管理費はマンション運営に不可欠な費用であり、滞納が続けば他の区分所有者への公平性が損なわれるため、法的な対応も必要になります。ご本人に財産管理能力がない場合、従来の督促は無効となってしまうため、成年後見制度の活用が最も確実な解決策となります。
 まず、滞納者の親族(配偶者、子など)に連絡を取り、状況を説明した上で、親族から家庭裁判所に成年後見開始の申立てを行ってもらうよう促してください。成年後見人が選任されれば、その方が滞納者の法定代理人として財産を管理し、滞納管理費の支払いに応じてくれます。
 もし親族がいない、あるいは協力を拒否する場合でも、管理組合は債権者の立場として、家庭裁判所に成年後見開始の申立てを行うことができます。この申し立てには費用や手間がかかりますが、放置して時効を迎える前に、裁判所という第三者の関与を得て問題を解決することが、管理組合の責任となります。

 これらの対応を進めるためには、訪問や電話連絡の記録、地域包括支援センターへの相談記録など、すべてのプロセスと事実を詳細に記録保存し、滞納額が増大する前に迅速に行動を起こすことが、ご本人とマンション全体の利益を守ることに繋がります。

(回答者:TK)