災害時の理事長権限の範囲はどこまで?

 私は理事長をしています。最近の地震や水害のニュースを見て、災害が起きたときに理事会を開催している余裕はないだろうと感じています。緊急時に、管理組合の決議(総会や理事会)を経ずに、理事長が単独で決定・実施できる工事や支出の範囲はどこまででしょうか?特に人命や建物の安全にかかわる費用について、法的な根拠と合わせて教えてください。

 災害時の緊急対応における理事長様の権限は、迅速な判断と行動のために非常に重要です。この権限を強化したのが、平成28年(2016年)のマンション標準管理規約改正であり、まずはお住まいのマンションの規約がこの改正を反映しているかがポイントになります。

 2016年改正以前は、理事長が単独で行えるのは「共用部分の保存行為」(現状維持のための最低限の措置)に限られていました。しかし、大規模災害時にそれでは対応が遅れるという問題を受け、改正後の標準管理規約では、「災害等の緊急時においては、総会や理事会の決議を経ずに、理事長が単独で必要な措置を行うことができる」と明確にされました。これにより、人命の安全確保や、二次被害の拡大を防ぐための応急的な工事も、理事長が迅速に判断し、実行できる法的裏付けが強化されました。

 単独で実施できる範囲は、建物の安全性を維持するための応急措置が中心となります(例:破損箇所のブルーシート養生、危険な外壁の緊急撤去、備蓄品の購入など)。

 そして、この権限の行使には管理規約で費用の上限を定めておいた方が良いでしょう。理事長が単独で支出できる緊急費用の上限額(例:50万円や100万円など)が決めてあれば、根拠をもって権限を行使しやすくなります。上限を超過する場合でも、緊急性が極めて高い場合は対応を優先すべきですが、その場合は、措置を講じた後、速やかに理事会または総会で費用と措置の内容を報告し、承認(追認)を得ることが必須となります。

 まずはご自身のマンションの規約が2016年の改正を反映しているか確認しましょう。チェックするポイントは

 第21条第6項(理事長の単独権限): 理事長は、災害等の緊急時においては、総会又は理事会の決議によらずに、敷地及び共用部分等の必要な保存行為を行うことができる。
 第23条第4項(災害時の必要箇所への立入り):理事長は、災害、事故等が発生した場合であって、緊急に立ち入らないと共用部分等又は他の専有部分に対して物理的に又は機能上重大な影響を与えるおそれがあるときは、専有部分又は専用使用部分に自ら立ち入り、又は委任した者に立ち入らせることができる。

 上限金額の定めは、細則などに定めがあるか確認し、定めがなければ、管理費会計の「予備費」や「緊急修繕費」等の項目が上限になります。
 必要な規約改正の実施と、緊急時のルールと予算上の上限額を、全住民に周知しておくことが、事前の備えとして最も重要です。